第57回

第57回理学療法士国家試験 午前問題19

50歳の男性。会社の健康診断で尿糖陽性を指摘され、受診した。入院時、身長175 cm、体重85 kg。脈拍75/分、血圧165/86 mmHg。両側足関節の振動覚は鈍麻。血液生化学所見では、空腹時血糖385 mg/dL(基準値65〜109 mg/dL)、HbA1c 8.6%(基準値4.6〜6.2%)、トリグリセリド362 mg/dL(基準値30〜150 mg/dL)、LDLコレステロール128 mg/dL(基準値70〜139 mg/dL)であった。尿検査でケトン体陰性であった。入院後、食事療法と薬物療法が開始されている。運動療法開始時に必要な条件はどれか。

  1. 感覚障害が改善する。
  2. 脂質異常症が改善する。
  3. 尿中ケトン体が陽性となる。
  4. HbA1cが基準値内まで低下する。
  5. 空腹時血糖が250 mg/dL未満となる。

解答解説

正解は5. 空腹時血糖が250 mg/dL未満となるです。

糖尿病患者において、運動療法は血糖コントロールの改善に有効ですが、高血糖(空腹時血糖250 mg/dL以上)の状態では、運動が血糖値をさらに悪化させる危険性があります。特に、血中ケトン体陽性を伴う場合、運動により糖新生が促進されてケトアシドーシスを誘発するリスクがあるため、運動療法を開始する際には空腹時血糖が250 mg/dL未満であることが重要な条件です。

各選択肢の解説

  1. 感覚障害が改善する。
    感覚障害(振動覚の鈍麻)は糖尿病性末梢神経障害の可能性があり、運動療法とは直接の関連性がありません。感覚障害が改善することを運動療法開始の条件とする必要はありません。
  2. 脂質異常症が改善する。
    脂質異常症は糖尿病患者にしばしば合併しますが、運動療法は脂質改善のためにも行うべきです。脂質異常症の改善が運動療法開始の条件とはなりません。
  3. 尿中ケトン体が陽性となる。
    尿中ケトン体が陽性の場合、運動療法は禁忌です。ケトアシドーシスを招くリスクがあるため、尿中ケトン体は陰性であることが条件となります。この選択肢は誤りです。
  4. HbA1cが基準値内まで低下する。
    HbA1cは長期的な血糖コントロールの指標であり、基準値内まで低下するには時間がかかります。HbA1cが基準値内になることは運動療法開始の条件ではありません。
  5. 空腹時血糖が250 mg/dL未満となる。(正解)
    空腹時血糖が250 mg/dL未満であることは、安全に運動療法を行うための重要な条件です。血糖値が高すぎる場合は運動が逆効果になることがあるため、250 mg/dLを基準とすることが推奨されています。

ワンポイントアドバイス

糖尿病患者における運動療法では、空腹時血糖が250 mg/dL未満、かつ尿中ケトン体陰性であることを確認することが基本条件です。また、運動中の低血糖リスクを防ぐため、運動前後の血糖値の測定や軽食の摂取が重要です。