第56回

第56回理学療法士国家試験 午前問題38

椅子からの立ち上がり動作を観察したところ、両上肢で大前面を支持し、過度に体幹を前傾した状態から殿部離床し、その後体幹を前傾したまま早期に膝関節の伸展が見られた。最後に体幹を伸展し立ち上がりを終了した。この間、顕著な姿勢の動揺は認めなかった。この動作異常が生じている心身機能・身体構造の問題点として最も考えられるのはどれか。

  1. 無動
  2. 片麻痺
  3. 運動失調
  4. 両下肢筋力低下
  5. 両股関節伸展可動域制限

解答解説

正解は4(両下肢筋力低下)です。
立ち上がり動作において、体幹を過度に前傾させる動作は、下肢の筋力不足を補うための代償動作です。特に、大腿四頭筋や股関節伸展筋(大殿筋)の筋力が低下している場合、膝を早期に伸展させて重心を前方に移動し、立ち上がり動作を達成しようとします。

各選択肢の解説

  1. 無動
     誤りです。無動は主にパーキンソン病に関連し、動き出しの困難や動作の全体的な遅さが特徴です。本症例のようにスムーズな動作がみられる場合、無動は考えにくいです。
  2. 片麻痺
     誤りです。片麻痺の場合、立ち上がり動作で左右差が顕著に現れることが多いですが、本例では両側の下肢に関与する代償動作が見られるため該当しません。
  3. 運動失調
     誤りです。運動失調では協調運動の障害により動作が不安定になり、立ち上がり時に顕著な姿勢の動揺がみられます。本例では姿勢の動揺がないため該当しません。
  4. 両下肢筋力低下
     正しい選択肢です。両下肢の筋力(特に大腿四頭筋や大殿筋)が低下すると、体幹を過度に前傾させて重心を前方に移動させ、代償的に立ち上がり動作を行うことが一般的です。
  5. 両股関節伸展可動域制限
     誤りです。股関節伸展可動域制限がある場合、立ち上がりの際に動作がさらに制限されることがありますが、本例では最終的に体幹を伸展させて立ち上がりを完了しているため、可動域制限は考えにくいです。

ワンポイントアドバイス

立ち上がり動作の観察では、体幹や下肢の筋力、関節可動域の問題、代償動作の有無に注目することが重要です。特に、体幹の過度な前傾や膝の早期伸展は、筋力低下を示唆する代償動作としてよくみられるため、リハビリ計画を立てる際に有効な情報となります。