次の文により11、12の問いに答えよ。
35歳の男性。実業団の長距離選手だったが、ランニング中の交通事故で左脛骨中央部での下切断となった。切断術後4週が経過し、左膝関節に軽度の側方不安定性と軽度の筋力低下があるものの、断端は成熟し皮膚の状態は良好となった。スポーツ復帰を念頭に義足を製作することとした。
11 最適なソケットはどれか。
- 大腿コルセット
- くさび式ソケット
- カフベルト付きPTBソケット
- PTBソケット
- シリコンライナー付きソケット
解答解説
正解は5.シリコンライナー付きソケットです。
スポーツ復帰を目指す患者には、義足の装着時に高い安定性と快適性が求められます。シリコンライナー付きソケットは、密着性に優れ、動作中の断端への負担を軽減できるため、スポーツ活動に適しています。
各選択肢の解説
- 大腿コルセット
誤り。大腿コルセットは、膝関節の側方不安定性が高度な場合や支持性が不足している場合に用いられる補助具ですが、スポーツ向けには適しません。装着感が重く、運動時の自由度を制限します。 - くさび式ソケット
誤り。くさび式ソケットは簡易義足に用いられることが多く、精密なフィッティングや高い安定性を必要とするスポーツ活動には向いていません。 - カフベルト付きPTBソケット
誤り。カフベルト付きPTBソケットは、膝下での適切な支持を得られるものの、膝関節周囲の動きが制限されやすく、スポーツ活動には適していません。 - PTBソケット
誤り。PTBソケットは広く使用されていますが、シリコンライナーと比較すると断端の保護や動作時の安定性が劣るため、スポーツ復帰を目指すケースには最適ではありません。 - シリコンライナー付きソケット
正解。シリコンライナー付きソケットは、断端との密着性が高く、皮膚を保護しつつ義足の安定性を確保します。スポーツ活動の際の動きやすさ、快適性に優れており、この患者に最適な選択肢です。
ワンポイントアドバイス
スポーツ復帰を目指す切断者には、断端の保護、義足の安定性、動作の自由度が重要です。シリコンライナー付きソケットはこれらを高いレベルで実現できる装具です。活動性が高い患者には、適切なソケットの選定が義足の使用感とパフォーマンスに直結します。
12 義足での歩行練習開始後、義足側の立脚初期に過度の膝屈曲がみられた。原因として考えられるのはどれか。
- 左股関節に伸展制限がある。
- 義足足部の底屈制動が強すぎる。
- 義足足部のtoe-out角が大きすぎる。
- ソケットの初期屈曲角が小さすぎる。
- ソケットに対して足部が前方に位置しすぎている。
解答解説
正解は2.義足足部の底屈制動が強すぎるです。
義足足部の底屈制動が強すぎると、立脚初期において足部がスムーズに底屈できなくなり、膝屈曲が強調されます。この過度の膝屈曲は立脚初期の歩行動作を不安定にするため、適切な調整が必要です。
各選択肢の解説
- 左股関節に伸展制限がある。
誤り。股関節伸展制限がある場合は、歩行中に骨盤が後傾し、歩幅が小さくなるなどの影響が現れますが、義足側の立脚初期に特有の過度な膝屈曲には直接関係しません。 - 義足足部の底屈制動が強すぎる。
正解。義足足部の底屈制動が強すぎると、足部が十分に底屈せず、足部の前部が接地するまでの時間が延びます。この結果、膝が過剰に屈曲することで立脚初期の不安定性が生じます。 - 義足足部のtoe-out角が大きすぎる。
誤り。義足足部のtoe-out角が大きすぎる場合は、主に歩行時の回旋動作に影響を与え、歩行の効率が低下しますが、膝屈曲の過剰な動きには直接関係しません。 - ソケットの初期屈曲角が小さすぎる。
誤り。ソケットの初期屈曲角が小さすぎると、膝が伸展方向に動きやすくなり、むしろ立脚初期に膝が十分に屈曲しない可能性があります。膝屈曲過剰の原因とは逆です。 - ソケットに対して足部が前方に位置しすぎている。
誤り。ソケットに対して足部が前方に位置すると、立脚中期や後期で膝が過剰に伸展する可能性が高くなります。立脚初期の膝屈曲過剰とは関係がありません。
ワンポイントアドバイス
義足側の立脚初期における膝屈曲過剰は、足部の底屈制動やソケット角度、足部の位置が主な原因となります。底屈制動が強いと膝が過剰に屈曲し、不安定な歩行につながるため、義足の調整が重要です。患者の歩行観察を通じて原因を特定し、適切に対応しましょう。