58歳の男性。半年前から両手の筋萎縮に気付き、最近しゃべりにくさを自覚するようになった。体重は半年で70kgから60kgに減少。MMTは両上肢の近位筋が2、遠位筋が4、両下肢が4。四肢の腱反射は亢進。舌の萎縮が認められるが明らかな嚥下障害はない。肺機能検査で%肺活量は95%。動脈血ガス分析はPaO2:90 Torr、PaCO2:40 Torrであった。現時点で最も適切な対応はどれか。
- BFOの導入
- 胃瘻造設術の施行
- 気管切開術の施行
- 電動車椅子の導入
- 在宅酸素療法の導入
解答解説
正解は 1. BFOの導入 です。
状況の分析
この患者は筋萎縮性側索硬化症(ALS)が疑われる病態を呈しています。特徴的な所見として、以下が挙げられます。
- 筋萎縮:特に両手の筋萎縮が目立つ。
- 腱反射の亢進:上位運動ニューロン障害を示唆。
- 舌の萎縮:下位運動ニューロン障害を示唆。
- しゃべりにくさ:球麻痺の初期症状としての構音障害の可能性。
現時点では%肺活量が95%と呼吸機能は保たれていますが、ALSでは進行性の呼吸筋麻痺が生じるため、早期の**非侵襲的陽圧換気(BFO: Bilevel Positive Airway Pressure)**の導入が適切です。
各選択肢の解説
- BFOの導入(正解)
ALS患者では早期から呼吸機能をモニタリングし、%肺活量が正常範囲内であっても、呼吸筋の疲労を軽減する目的でBFOを導入することが推奨されます。この選択肢が最も適切です。 - 胃瘻造設術の施行
嚥下障害が進行し、経口摂取が困難となった場合に胃瘻の造設を考慮しますが、現時点では明らかな嚥下障害がないため、この選択肢は不適切です。 - 気管切開術の施行
気管切開術は、侵襲的人工呼吸管理が必要となった場合に検討されます。現時点での動脈血ガス分析は正常であり、%肺活量も保たれているため、この選択肢は不適切です。 - 電動車椅子の導入
ALS患者では移動手段として電動車椅子を導入することがありますが、MMTの結果から下肢筋力が保たれている(4)ため、現時点では優先度が低いと考えられます。 - 在宅酸素療法の導入
在宅酸素療法は低酸素血症のある患者に適応されます。この患者の動脈血ガス分析ではPaO2:90 Torrと正常値であり、導入の必要はありません。
ワンポイントアドバイス
ALSの管理では、呼吸機能の低下を早期に予測し、BFOなどの非侵襲的換気療法を適切に導入することが重要です。また、患者の病態の進行に応じて、栄養管理や移動手段、コミュニケーション手段などのサポートを段階的に検討します。