75歳の男性。脳挫傷。飲酒しトイレで倒れていた。頭部CT(別冊No. 3)を別に示す。明らかな運動麻痺はなく、反復唾液嚥下テスト(RSST)は5回/30秒である。改訂水飲みテスト(MWST)や食物テストでは嚥下後の呼吸は良好でむせもない。義歯を使用すれば咀嚼可能であるが、実際の食事場面では自分で食物を口に運ぼうとしない。
この患者の摂食嚥下で障害されているのはどれか。
- 先行期
- 準備期
- 口腔期
- 咽頭期
- 食道期
解答解説
正解は1(先行期)です。
摂食嚥下障害の「先行期」は、食事行動を開始する意思や動作が障害される段階です。この患者は運動麻痺がなく、改訂水飲みテストや食物テストでは問題がないことから、準備期以降の障害は否定的です。しかし、「自分で食物を口に運ぼうとしない」という症状は、認知機能や注意機能の低下により先行期の障害が生じていることを示唆します。
各選択肢の解説
- 先行期
先行期は、食事を認識し、口に運ぶ行為を計画・実行する段階です。この患者のように、明らかな運動機能の問題がなくても、認知機能や注意機能が低下すると「食物を口に運ばない」といった先行期の障害が生じます。この症例に該当します。 - 準備期
準備期は、口腔内で食物を咀嚼し、飲み込みやすい状態にする段階です。この患者は義歯を使用すれば咀嚼可能であり、準備期の障害は示唆されません。 - 口腔期
口腔期は、舌や口腔周囲の筋肉を用いて食塊を咽頭へ送り込む段階です。この患者では、RSSTやMWSTにおいて問題が報告されておらず、口腔期の障害も否定的です。 - 咽頭期
咽頭期は、食物が咽頭から食道に送られる際の嚥下反射や呼吸との協調が関わる段階です。この患者は嚥下後の呼吸が良好であり、むせもないことから、咽頭期の障害は否定されます。 - 食道期
食道期は、食物が食道を通過し、胃に運ばれる段階です。MWSTや食物テストで特に問題がないため、食道期の障害も示唆されません。
ワンポイントアドバイス
摂食嚥下障害を評価する際は、各期の特徴をしっかりと把握することが重要です。先行期は特に認知機能や注意機能の低下が原因となることが多く、食事を認識し、行動を開始するプロセスの障害に着目しましょう。この問題では、「自分で食物を口に運ぼうとしない」点が診断の決め手です。