第54回

第54回理学療法士国家試験 午前問題14・15

60歳の男性。右利き。歩行困難のため搬送された。発症7日目の頭部MRIと頭部MRAを示す。閉塞している動脈はどれか。

  1. 右前大脳動脈
  2. 右中大脳動脈
  3. 右内頸動脈
  4. 右椎骨動脈
  5. 脳底動脈

解答解説

正解は2. 右中大脳動脈です。

解説

右中大脳動脈(MCA)の閉塞により、頭部MRI画像では右中大脳動脈支配領域(特に左半球の運動・感覚野に対応する領域)に高信号の異常が見られます。これは脳梗塞を示唆しています。MRA画像では、右中大脳動脈の途絶が確認できます。

各選択肢についての解説

  1. 右前大脳動脈(誤り)
    • 前大脳動脈(ACA)の閉塞では、運動麻痺や感覚障害は主に下肢に強く現れます。しかし、MRI画像での梗塞部位は中大脳動脈支配領域に一致しているため、該当しません。
  2. 右中大脳動脈(正解)
    • 中大脳動脈(MCA)は、顔面や上肢、運動・感覚野を含む広範囲を支配します。MRI画像とMRA画像の所見は、右中大脳動脈の閉塞に一致しています。これにより、歩行困難や右半球の脳梗塞が説明されます。
  3. 右内頸動脈(誤り)
    • 内頸動脈の閉塞は、MCAやACAへの血流を遮断し、より広範囲な障害を引き起こします。しかし、今回の画像所見では、影響がMCAの領域に限定されているため該当しません。
  4. 右椎骨動脈(誤り)
    • 椎骨動脈は後大脳動脈(PCA)や脳幹、後頭葉、小脳などに血流を供給します。この症例ではこれらの領域に異常は見られず、該当しません。
  5. 脳底動脈(誤り)
    • 脳底動脈の閉塞では、脳幹や小脳への血流障害を引き起こし、生命に関わる重篤な状態を示します。しかし、今回の画像ではその所見はありません。

ワンポイントアドバイス

中大脳動脈(MCA)は脳梗塞の好発部位であり、臨床症状(歩行困難、半身麻痺、感覚障害)や画像所見(MRIでの高信号、MRAでの途絶)を組み合わせて診断を行います。MCAの支配領域をしっかりと把握し、他の動脈の支配領域と区別できるようにしましょう。


15.この患者に生じやすい症状はどれか。

  1. 観念失行
  2. 左右失認
  3. 純粋失読
  4. 病態失認
  5. 観念運動失行

解答解説

正解は4. 病態失認です。

解説

患者のMRIとMRAの所見から、右中大脳動脈(MCA)領域の梗塞が確認されます。右中大脳動脈領域の障害は、特に右半球の頭頂葉側頭葉に影響を及ぼし、以下の症状が生じやすいです:

右半球の障害による特徴的な症状

  1. 病態失認
    • 病態失認とは、麻痺や感覚障害があるにもかかわらず、自分の症状を認識できない状態です。右頭頂葉の障害により出現しやすく、特に左半身の麻痺や感覚障害を認識できないことが多いです。
    • 本症例では、右中大脳動脈領域の虚血によって左片麻痺が生じている可能性があり、病態失認が典型的な症状として予測されます。

選択肢の解説

  1. 観念失行(誤り)
    • 観念失行は、動作の概念や目的そのものが障害され、複数の動作を組み合わせた一連の行動(例:コーヒーを入れる)ができなくなる状態です。
    • これは主に左半球の頭頂葉の障害で生じますが、本症例では右半球の病変であり該当しません。
  2. 左右失認(誤り)
    • 左右失認は、自分の左右を認識できなくなる障害で、主に左半球の頭頂葉(特に角回)の障害で生じます。
    • 本症例は右半球の病変であり、この症状は該当しません。
  3. 純粋失読(誤り)
    • 純粋失読は、文字を読むことができなくなる障害で、視覚情報処理を担う左後頭葉や脳梁後部の損傷に関連します。
    • 本症例は右中大脳動脈領域の病変であり、該当しません。
  4. 病態失認(正解)
    • 右半球(特に頭頂葉)の障害に伴い、左片麻痺や感覚障害があるにもかかわらず、それを認識できない病態失認が典型的に見られます。本症例に該当します。
  5. 観念運動失行(誤り)
    • 観念運動失行は、動作の意図は理解しているものの、それを正確に実行できない障害です。これも左半球(頭頂葉)の障害で生じやすいため、本症例には該当しません。

ワンポイントアドバイス

右中大脳動脈領域の梗塞では、特に右頭頂葉の障害による症状(病態失認、空間認識の障害、左半側空間無視など)が特徴的です。これにより、患者が自身の障害を認識できないため、リハビリテーションではその特性に配慮した対応が重要です。