正中神経を手首と肘部で電気刺激した運動神経伝導検査の波形を示す。この運動神経伝導検査から考えられる病態はどれか。ただし、手首と肘部の刺激部位間の距離は175 mmである。(正常範囲:振幅 3.5 mV以上、運動神経伝導速度 48 m/s以上)
- 運動ニューロン変性
- 軸索変性
- 神経筋接合部異常
- 正常
- 脱髄
解答解説
正解は5. 脱髄です。
解説
この波形の特徴を分析すると、以下のことがわかります:
- 振幅の低下がみられない:肘部刺激(9.2 mV)および手首刺激(11.5 mV)の振幅が正常範囲(3.5 mV以上)であるため、軸索変性のような振幅低下を伴う病態ではないことがわかります。
- 運動神経伝導速度が遅い:
- 手首と肘部の刺激部位間の距離は175 mm(0.175 m)。
- 手首と肘部の潜時差は10.9 ms − 5.9 ms = 5.0 ms。
- 伝導速度 = 距離 ÷ 潜時差 = 0.175 m ÷ 0.005 s = 35 m/s(正常値48 m/s以上に対し遅延)。
これにより、伝導速度が著しく低下していることが確認できます。
病態の判断
運動神経伝導速度の低下は、神経伝導路における髄鞘の障害、すなわち脱髄を示唆します。一方で、振幅が正常であることから、軸索そのものの変性は否定的です。この結果は、脱髄が主な病態であることを強く支持します。
選択肢の解説
- 運動ニューロン変性(誤り)
運動ニューロン変性では、神経伝導速度の低下は一般的にはみられず、振幅が低下することが特徴的です。この検査結果には一致しません。 - 軸索変性(誤り)
軸索変性では、振幅が著しく低下することが特徴です。しかし、この検査では振幅が正常であるため、軸索変性は否定されます。 - 神経筋接合部異常(誤り)
神経筋接合部異常では反復刺激検査で異常がみられることが特徴であり、伝導速度や振幅の異常は必ずしも発生しません。この検査結果では該当しません。 - 正常(誤り)
伝導速度が35 m/sと低下しており、正常範囲(48 m/s以上)に入らないため正常ではありません。 - 脱髄(正解)
伝導速度の低下(35 m/s)は脱髄に一致します。また、振幅は正常であり、軸索変性が主体ではないことも示しています。よって正解です。
ワンポイントアドバイス
運動神経伝導速度の低下は、神経の髄鞘の障害(脱髄)を示唆します。一方で、振幅の低下は軸索変性を反映します。試験問題では、これら2つの指標を正確に区別し、病態を特定することが重要です。