第56回

第56回理学療法士国家試験 午後問題18

80歳の女性。夫と二人暮らし。認知症があり、MMSEは13点。自宅にて転倒し、救急搬送され大腿骨頸部骨折と診断されて人工骨頭置換術が行われた。その後、回復期リハビリテーション病棟へ転棟し、理学療法を開始したが消極的である。理学療法中の患者の訴えへの返答で適切なのはどれか。

  1. 「あなたのお名前は?」と繰り返し聞かれた → 「さっきも答えましたよ」
  2. 「今すぐ帰りたい」と繰り返し訴えた → 「帰りたいのですね」
  3. 関節可動域運動中に術部に痛みを訴えた → 「我慢してください」
  4. 「今日はやりたくない」と強く訴えた → 「やらないと歩けなくなりますよ」
  5. 「財布を盗られた」と訴えた → 「財布は持ってきてはいけませんよ」

解答解説

正解は2.「帰りたいのですね」です。

この返答は、患者の感情に共感し、患者が伝えたいことを受け入れるコミュニケーション方法です。認知症患者に対しては、否定や矯正をするのではなく、患者の気持ちを理解し、安心感を与えることが重要です。具体的な行動を促す際も、患者に寄り添った言葉を選びます。

選択肢の解説

  1. 「あなたのお名前は?」と繰り返し聞かれた → 「さっきも答えましたよ」
    認知症患者に対して「さっきも答えました」と伝えるのは、患者の記憶障害を指摘する形になり、感情を傷つける可能性があります。何度も同じ質問をする場合は、根気よく答え続け、安心感を与えることが重要です。この選択肢は誤りです。
  2. 「今すぐ帰りたい」と繰り返し訴えた → 「帰りたいのですね」
    「帰りたい」という訴えに対して、否定せず受け入れる返答は、患者の気持ちを尊重する姿勢を示します。その上で、「帰りたい気持ちはわかりますが、少しリハビリを頑張ってから考えましょう」といった促しにつなげることが望ましいです。正解です。
  3. 関節可動域運動中に術部に痛みを訴えた → 「我慢してください」
    痛みを訴える患者に「我慢してください」と返答するのは、不適切です。痛みの程度を確認し、リハビリ内容を調整することが大切です。この選択肢は誤りです。
  4. 「今日はやりたくない」と強く訴えた → 「やらないと歩けなくなりますよ」
    患者を脅したり不安を煽るような返答は、モチベーションを下げ、患者との信頼関係を損なう可能性があります。励ましや寄り添う対応が必要です。この選択肢は誤りです。
  5. 「財布を盗られた」と訴えた → 「財布は持ってきてはいけませんよ」
    認知症患者の訴えに対し、否定的な言葉で返答すると混乱や不安が増す場合があります。この場合、「どのような財布ですか?」など患者の訴えに寄り添う対応が必要です。この選択肢は誤りです。

ワンポイントアドバイス

認知症患者への対応では、患者の感情に共感し、訴えを受け入れる姿勢が基本です。「否定しない」「感情に寄り添う」「安心感を与える」対応を心がけ、患者がリハビリに前向きになれるよう支援しましょう。