第56回

第56回理学療法士国家試験 午後問題14

87歳の女性。転倒して左股関節痛を訴え、入院となった。受傷後2日目に後方侵入法で手術を受けた。術後のエックス線写真(別冊No. 3)を別に示す。正しいのはどれか。

  1. 臥床時には股関節を内転位に保つ。
  2. 靴下の着脱は股関節外旋位で行う。
  3. 術後1週から大四頭筋セッティングを開始する。
  4. 術後2週から中殿筋の筋力トレーニングを開始する。
  5. 術後3か月は免荷とする。

解答解説

正解は2.靴下の着脱は股関節外旋位で行うです。

股関節の後方侵入法での手術(人工股関節置換術:THA)後は、股関節脱臼を予防するための注意点を守ることが重要です。後方侵入法では特に内転・内旋・過度屈曲(90°以上)による脱臼リスクが高まるため、これらを避けた動作指導が行われます。靴下の着脱時には股関節を外旋位に保つことで、脱臼のリスクを軽減できます。

選択肢の解説

  1. 臥床時には股関節を内転位に保つ。
    股関節を内転位にすると、後方脱臼のリスクが高まります。術後の臥床では外転枕などを使用して股関節を軽度外転位に保つ必要があります。この選択肢は誤りです。
  2. 靴下の着脱は股関節外旋位で行う。
    術後に股関節を内旋させると後方脱臼のリスクが高いため、外旋位を保つことが重要です。靴下の着脱時も股関節外旋位で行うことが適切な指導です。正解です。
  3. 術後1週から大四頭筋セッティングを開始する。
    大四頭筋セッティングは術後翌日から開始するのが一般的です。これにより、早期から筋萎縮を予防し、下肢筋力を維持することができます。術後1週では遅すぎます。この選択肢は誤りです。
  4. 術後2週から中殿筋の筋力トレーニングを開始する。
    中殿筋の筋力トレーニングは、術後早期(通常術後1~2日目)から開始されます。中殿筋は歩行時の骨盤安定に重要な筋であり、早期からのアプローチが求められます。2週目開始では遅すぎます。この選択肢は誤りです。
  5. 術後3か月は免荷とする。
    人工股関節置換術後では、骨の状態や手術内容によりますが、一般的には術後1~2日目から部分荷重が許可され、数週間以内に全荷重が可能となります。術後3か月間も免荷とするのは過剰な制限であり、リハビリの妨げとなります。この選択肢は誤りです。

ワンポイントアドバイス

後方侵入法による人工股関節置換術後は、脱臼予防が最優先です。特に、内旋・内転・屈曲(90°以上)を避ける指導が重要です。日常生活の中で具体的な動作指導(靴下の着脱や椅子への座り方など)を通じて、患者が安全に生活できるようサポートすることが理学療法士の役割です。また、術後早期からのリハビリ介入による筋力維持と機能回復も大切です。