第57回

第57回理学療法士国家試験 午後問題6・7

次の文により6、7の問いに答えよ。
28歳の男性。2週前にGuillain-Barré症候群と診断された。γグロブリン大量静注療法を実施され、症状の進行は停止した。本日実施した右上肢の運動神経伝導検査の結果を表に示す。

6.最も障害されていると考えられる運動はどれか。

  1. 母指対立
  2. 示指MP関節伸展
  3. 中指DIP関節伸展
  4. 環指PIP関節屈曲
  5. 小指外転

解答解説

正解は5です。

検査結果から尺骨神経の伝導速度および振幅が著しく低下しており、特に肘部での振幅が0.3mV(正常値下限2.7mV)と顕著な障害が見られます。尺骨神経が支配する小指外転を担当する筋肉(小指外転筋)が最も影響を受けるため、小指外転(選択肢5)が最も障害されている運動と考えられます。

各選択肢の解説

  1. 母指対立
    母指対立は主に正中神経の支配下にある母指対立筋によって行われます。検査結果では正中神経の伝導速度および振幅は正常範囲内であり、この運動が障害される可能性は低いです。
  2. 示指MP関節伸展
    この運動を担うのは主に橈骨神経支配の筋群です。検査結果では橈骨神経も正常範囲内であるため、この運動に障害は見られません。
  3. 中指DIP関節伸展
    この運動は主に橈骨神経支配の筋群が関与していますが、検査結果では橈骨神経に異常は見られないため、障害の可能性は低いです。
  4. 環指PIP関節屈曲
    環指の屈曲運動は主に正中神経が関与しています。検査結果では正中神経は正常範囲内であり、この運動が障害される可能性は低いです。
  5. 小指外転(正解)
    正しい選択肢です。小指外転を担うのは尺骨神経支配の小指外転筋です。検査結果では尺骨神経の振幅と伝導速度が正常範囲を下回っており、この運動が最も障害されていると考えられます。

ワンポイントアドバイス

Guillain-Barré症候群では末梢神経の脱髄や伝導ブロックが主な特徴で、神経伝導検査では振幅の低下や伝導速度の遅延が見られます。特に症状の強い部位の神経が支配する筋肉が障害されるため、検査結果を正確に読み取ることが重要です。


7.現時点で最も導入を検討すべき装具はどれか。

  1. 長対立装具
  2. ナックルベンダー
  3. IP関節伸展補助装具
  4. 母指Z変形用スプリント
  5. コックアップ・スプリント

解答解説

正解は2です。

Guillain-Barré症候群では、筋力低下や神経麻痺により尺骨神経や正中神経支配の筋群が障害されることがあります。特にナックルベンダーは、MP関節(中手指節関節)の屈曲補助を目的とした装具であり、現在の状態で効果的に指の機能をサポートする装具として適しています。

各選択肢の解説

  1. 長対立装具
    長対立装具は、正中神経麻痺により母指の対立運動が障害されている場合に使用されます。しかし、今回の患者の検査結果では正中神経には特に大きな障害が見られず、母指の対立運動を補助する必要性は低いと考えられます。
  2. ナックルベンダー(正解)
    正しい選択肢です。ナックルベンダーは、MP関節の屈曲を補助する装具で、特に尺骨神経麻痺などで小指や環指の動きが障害された場合に効果的です。本症例では尺骨神経の振幅や伝導速度が低下しており、MP関節屈曲を補助するためのナックルベンダーの使用が適切と考えられます。
  3. IP関節伸展補助装具
    IP関節伸展補助装具は、指のDIP関節やPIP関節の伸展障害がある場合に使用されます。しかし、本症例ではMP関節の屈曲補助が優先されるため、この装具の適用は優先度が低いと考えられます。
  4. 母指Z変形用スプリント
    母指Z変形用スプリントは、母指にZ変形(関節変形)が発生している場合に使用されます。今回の患者の症状には母指の変形はなく、適用の必要性はありません。
  5. コックアップ・スプリント
    コックアップ・スプリントは手関節の背屈位を保持し、手指の運動を補助する装具です。正中神経麻痺や橈骨神経麻痺で手関節の背屈が障害されている場合に使用されますが、今回の症例では手関節よりもMP関節の屈曲補助が必要とされるため、優先度は低いと考えられます。

ワンポイントアドバイス

Guillain-Barré症候群では、神経麻痺に応じた早期の装具導入が重要です。筋力低下を補助し、動作をサポートする装具を選択することで、関節拘縮の予防や日常生活動作(ADL)の維持が期待できます。適切な装具選択が回復期のリハビリテーションの質を高めます。