第57回

第57回理学療法士国家試験 午前問題1

47歳の女性。抗リン脂質抗体症候群の既往があり、右変形性膝関節症に対して高位脛骨骨切り術を2日前に受けた。右大腿部から足部まで発赤を伴う腫脹を認め、Homans徴候陽性である。術後に実施した主な血液検査結果を以下に示す。術後の合併症として考えられるものはどれか。

項目結果基準値
白血球7.5 × 10³3.3-8.6 × 10³/μL
血色素量12.511.6-14.8 g/dL
Dダイマー38.00.0-1.0 μg/mL
クレアチニン0.740.46-0.79 mg/dL
CRP2.250.00-0.14 mg/dL
BNP17.518.4 pg/mL 以下
  1. 蜂窩織炎
  2. リンパ浮腫
  3. 化膿性関節炎
  4. うっ血性心不全
  5. 深部静脈血栓症

解答解説

正解は5. 深部静脈血栓症です。

この患者は抗リン脂質抗体症候群の既往があり、術後という状況が血栓形成リスクを増大させています。また、Homans徴候陽性(下肢深部静脈血栓症でみられる特有の所見)、右下肢の発赤と腫脹、およびDダイマーの著しい上昇(38.0 μg/mL)が深部静脈血栓症(DVT)を強く示唆しています。他の検査データに大きな異常はなく、CRPの上昇も術後の炎症や血栓形成の影響と考えられます。

各選択肢の解説

  1. 蜂窩織炎
    蜂窩織炎は皮膚や皮下組織の感染による炎症で、発赤や腫脹を伴いますが、通常は全身炎症反応(白血球増加やCRPの著明上昇)を伴います。本症例ではCRPの上昇があるものの、血栓形成を示唆する他の所見が優先されます。
  2. リンパ浮腫
    リンパ浮腫はリンパ管の機能不全による浮腫ですが、発赤が通常みられないこと、またDダイマーが上昇しない点で本症例には当てはまりません。
  3. 化膿性関節炎
    化膿性関節炎は関節の感染による炎症で、術後感染として考慮されることもあります。ただし、関節周囲の強い疼痛や発熱、CRPや白血球の高度上昇が典型です。この症例ではこれらの特徴がみられません。
  4. うっ血性心不全
    うっ血性心不全では浮腫を伴うことがありますが、通常は両側性の浮腫が多く、BNPが基準値を超えるのが一般的です。本症例では右下肢のみの発赤・腫脹であり、BNPも基準値内です。
  5. 深部静脈血栓症(正解)
    深部静脈血栓症は術後の合併症として頻度が高く、Homans徴候陽性局所の発赤と腫脹Dダイマーの著しい上昇が特徴的です。本症例はすべての条件を満たしており、最も適切な診断です。

ワンポイントアドバイス

深部静脈血栓症(DVT)は、術後や長期臥床で発症しやすく、リスク因子として肥満、血栓症の既往、抗リン脂質抗体症候群などがあります。Dダイマーは血栓形成を示唆しますが、確定診断には下肢超音波検査造影CTが有用です。