第59回

第59回理学療法士国家試験 午前問題13

36 歳の男性。 1 週前、バイク運転中に転倒し左前腕を打撲した。その後、徐々に左手指の伸展が困難になった。左上肢の MMT は肘関節屈曲が 5 、前腕回外が2 、手関節屈曲が 4 、手関節伸展が 4 、手指伸展が 1 。左上肢の感覚障害は認めない。針筋電図検査では回外筋、総指伸筋および長母指伸筋で安静時に脱神経電位を認めた。
障害されている神経はどれか。

1. 尺骨神経
2. 正中神経
3. 橈骨神経
4. 後骨間神経
5. 前骨間神経

解答解説

正解は 4.後骨間神経 です。

後骨間神経は橈骨神経の分枝で、特に前腕の伸筋群(手指伸展や親指の伸展)を支配しています。今回の患者は手指伸展が困難で、針筋電図検査により回外筋、総指伸筋、長母指伸筋に脱神経電位が確認されています。これらの筋は後骨間神経によって支配されているため、後骨間神経が損傷されたと考えられます。また、後骨間神経は運動神経のみで、感覚神経を含まないため、今回のように感覚障害がないのも後骨間神経損傷の特徴です。

選択肢の解説

それぞれの神経が損傷された場合の症状と特徴的なテストや徴候について詳しく解説します。


1. 尺骨神経 (Ulnar Nerve)

  • 主な症状: 小指・環指の屈曲障害、母指内転障害、小指球の筋萎縮、手の筋力低下(特に手の内在筋)。
  • 特徴的な徴候:
    • 鷲手変形(Claw Hand): 小指と環指が過伸展し、PIP・DIP関節が屈曲した状態になる。特に中手骨の屈筋が弱くなるために発生する。
    • フローマン徴候(Froment’s Sign): 患者に紙をつかませて引っ張ると、母指の屈曲で補償しようとする(母指内転筋の筋力低下を示唆)。
  • 感覚障害: 手の小指側(尺側)の感覚が低下し、特に小指と環指の尺側半分に顕著。
  • テスト:
    • フローマン徴候: 母指内転筋の弱さを確認するためのテストで、尺骨神経麻痺を診断するのに有用です。

2. 正中神経 (Median Nerve)

  • 主な症状: 母指対立障害、手指の屈曲障害(特に示指・中指)、母指球の筋萎縮。
  • 特徴的な徴候:
    • 猿手(Ape Hand): 母指が対立できないため平坦に見える母指球の萎縮。
    • ビショップ徴候(Benediction Sign): 手指を屈曲させようとすると、示指と中指が十分に屈曲できない状態。
  • 感覚障害: 手掌の母指側3本半の指(母指、人差し指、中指、薬指橈側半分)の感覚障害がみられる。
  • テスト:
    • ティネル徴候(Tinel’s Sign): 手関節付近を軽く叩き、しびれが指先に放散するか確認。
    • ファーレンテスト(Phalen’s Test): 手首を深く屈曲させて症状が再現されるか確認し、手根管症候群の診断に有用です。

3. 橈骨神経 (Radial Nerve)

  • 主な症状: 手関節・手指の伸展障害、回外障害、下垂手(手首や指を上げられない)。
  • 特徴的な徴候:
    • 下垂手(Wrist Drop): 手関節と手指の伸展が不能で、手が垂れ下がる状態。
  • 感覚障害: 手背の母指・人差し指・中指の橈側部分で感覚障害がみられることが多い。
  • テスト:
    • 手関節の伸展テスト: 手関節を伸展しようとさせ、力が入らない場合は橈骨神経麻痺を疑います。

4. 後骨間神経 (Posterior Interosseous Nerve)

  • 主な症状: 手指・母指の伸展障害。手関節伸展は可能なことが多く、感覚障害はない。
  • 特徴的な徴候:
    • 指の伸展不能: 特に総指伸筋、長母指伸筋などの筋が機能しないため、手指を伸ばすことができません。
  • 感覚障害: 後骨間神経は運動神経のみで感覚神経を含まないため、感覚障害は生じません。
  • テスト:
    • 指伸展テスト: 手指の伸展ができない場合、後骨間神経麻痺が疑われます。感覚障害がない点も他の神経損傷との鑑別に有用です。

5. 前骨間神経 (Anterior Interosseous Nerve)

  • 主な症状: 母指の末節屈曲障害、示指の屈曲障害。手の屈曲が十分にできない。
  • 特徴的な徴候:
    • Oサイン: 母指と示指で「O」の形を作らせると、末節の屈曲が不十分になり、円が閉じられずに「つぶれたO」になる。
  • 感覚障害: 前骨間神経も運動神経のみで感覚神経を含まないため、感覚障害はありません。
  • テスト:
    • Oサインテスト: 母指と示指で「O」の形を作らせ、末節の屈曲ができない場合は前骨間神経麻痺が疑われます。

ワンポイントアドバイス

神経損傷では、特定の動作や筋の筋力低下、感覚障害の分布に注目することが重要です。特に、後骨間神経や前骨間神経は運動のみを司り、感覚に関与しないため、感覚障害がない点が他の神経損傷と鑑別する上でのポイントになります。また、筋電図検査や上記のテストを用いて、損傷神経を特定することが臨床的に有効です。