第56回

第56回理学療法士国家試験 午前問題15・16

45歳の女性。数日前、自宅で荷物を持ち上げた際、腰部と左下肢後面から足背外側部にかけての強い痛みが出現。安静にしても痛みが軽快せず受診し、腰椎椎間板ヘルニアと診断された。最も疑われる病変部位はどれか。

  1. L1/2
  2. L2/3
  3. L3/4
  4. L4/5
  5. L5/S1

解答解説

正解は5 (L5/S1)です。
腰椎椎間板ヘルニアは、ヘルニアが圧迫する神経根によって症状が異なります。左下肢後面から足背外側部への痛みは、S1神経根が障害されている典型的な症状です。L5/S1椎間板のヘルニアは、最も多い病変部位の一つであり、S1神経根を圧迫します。これにより、以下のような症状が現れます:

  • 痛みやしびれが下肢後面から足背外側部に放散
  • アキレス腱反射の低下
  • 足関節底屈筋力の低下

この患者の症状はS1神経根障害に一致するため、病変部位はL5/S1と考えられます。

各選択肢の解説

  1. L1/2
     上位の腰椎椎間板の障害では大腿部前面が主な影響範囲となり、今回のような下肢後面や足背への放散痛は生じません。
  2. L2/3
     大腿の前面および内側に影響が強く、今回の症状とは一致しません。
  3. L3/4
     膝蓋腱反射の低下や大腿前面の痛みが主な症状となりますが、足背外側部への影響は典型的ではありません。
  4. L4/5
     足の母趾背側(L5神経根領域)の感覚障害や運動障害が見られる可能性がありますが、足背外側部に一致する症状ではありません。
  5. L5/S1
     坐骨神経領域の支配範囲に一致する症状が見られ、今回のケースに合致します。

ワンポイントアドバイス

腰椎椎間板ヘルニアでは、神経根障害のパターンをしっかり覚えることが重要です。特に、放散痛の部位や反射異常、筋力低下が診断の手がかりになります。L5/S1とL4/5の症状は混同しやすいため、典型的な症状と関連神経根を確実に押さえましょう。


 

16 発症から数か月が経過し、足背外側部の痛みと安静時の腰痛は改善したが、労作時に軽度の腰痛が続いているため再度受診した。理学療法として適切でないのはどれか。

  1. TENS
  2. ホットパック
  3. Williams型装具の装着
  4. 体幹筋群の筋力トレーニング
  5. ハムストリングスのストレッチング

解答解説

正解は3 (Williams型装具の装着)です。
Williams型装具は主に腰椎の過伸展を制限する目的で使用されますが、患者はすでに労作時の軽度の腰痛のみが残存している状態です。このような慢性期において、過度に装具を使用すると筋力低下を招く可能性があります。理学療法では積極的な筋力トレーニングやストレッチが推奨されます。

各選択肢の解説

  1. TENS
     疼痛緩和を目的として慢性期でも有用で、安全に実施可能です。
  2. ホットパック
     筋肉の血行を促進し、痛みを軽減する目的で適切です。
  3. Williams型装具の装着
     急性期では有効ですが、慢性期では不適切です。装具に依存することで体幹筋群の弱化を招くリスクがあります。
  4. 体幹筋群の筋力トレーニング
     体幹の安定性を高め、再発予防のために非常に重要です。慢性期には適切です。
  5. ハムストリングスのストレッチング
     ハムストリングスの柔軟性を改善し、腰椎の負荷軽減につながるため推奨されます。

ワンポイントアドバイス

腰椎椎間板ヘルニアの神経根症状は、障害される椎間板の部位ごとに特有の神経支配領域があり、覚えることで効率的に鑑別が可能です。また、慢性期のリハビリでは過度な装具依存を避け、筋力トレーニングや柔軟性向上を重視することが重要です。