第52回

第52回理学療法士国家試験 午後問題16・17

次の文により16、17の問いに答えよ。
20歳の女性。1か月前に転倒し、疼痛は軽減したが膝関節の不安定感があり来院した。

16.実施した検査を図に示す。矢印は力を加えた方向を示す。この検査で陽性となったとき、損傷されたのはどれか。

  1. 外側側副靱帯
  2. 後十字靱帯
  3. 前十字靱帯
  4. 腸脛靱帯
  5. 内側側副靱帯

解答解説

正解は2. 後十字靱帯です。

この図は後引き出しテストを示しています。後引き出しテストでは、膝を90度屈曲させた状態で下腿を後方に押す力を加え、下腿が後方へ過剰に動く場合は後十字靱帯(PCL)の損傷が疑われます。後十字靱帯は膝関節の後方への安定性を保つ重要な靱帯であり、損傷すると膝関節の不安定感を訴えることがあります。

各選択肢の解説

  1. 外側側副靱帯
    外側側副靱帯の損傷は、膝関節に内反ストレス(膝が外側に開く方向の力)が加わった際に発生しますが、この検査(後引き出しテスト)では評価できません。
  2. 後十字靱帯(正解)
    後十字靱帯は膝関節の後方安定性を担う靱帯です。このテストで下腿が後方に過剰に動いた場合、後十字靱帯の損傷が示唆されます。この損傷は交通事故や転倒時に膝に強い後方力が加わることで発生することがあります。正答です。
  3. 前十字靱帯
    前十字靱帯の損傷は通常、膝の前方への引き出しテスト(前引き出しテスト)やLachmanテストで評価されます。この検査は後方の動きを評価しているため、前十字靱帯の損傷評価には該当しません。
  4. 腸脛靱帯
    腸脛靱帯は膝外側に位置し、大腿骨外側顆との摩擦で腸脛靱帯炎を引き起こすことがありますが、靱帯の損傷を示唆するものではなく、この検査では評価されません。
  5. 内側側副靱帯
    内側側副靱帯は膝関節に外反ストレス(膝が内側に開く方向の力)が加わった際に損傷しやすい靱帯です。しかし、このテストは内側側副靱帯の評価を目的としたものではありません。

ワンポイントアドバイス

後引き出しテストは、膝関節の後方不安定性を評価し、後十字靱帯の損傷を確認するための基本的なテストです。膝関節の安定性を評価する際には、前引き出しテストや内外反ストレステストなど、他の靱帯評価テストも併用して全体像を把握することが重要です。


17.他に損傷がなかった場合、優先すべき治療はどれか。

  1. 安静固定
  2. 水中歩行練習
  3. 大腿四頭筋の強化
  4. 超音波療法
  5. ハムストリングスの強化

解答解説

正解は3. 大腿四頭筋の強化です。

後十字靱帯(PCL)の損傷がある場合、膝関節の後方不安定性が生じます。大腿四頭筋は下腿を前方に引き出す作用があるため、後十字靱帯の機能を補助し、膝の安定性を向上させるのに重要な役割を果たします。そのため、大腿四頭筋の強化が優先されるべき治療となります。特に、関節内の炎症が落ち着いた段階で、無理のない範囲で筋力強化を進めることが求められます。

各選択肢の解説

  1. 安静固定
    初期の炎症や強い疼痛がある場合には適切ですが、他の損傷がなく安定している場合、過度の安静固定は筋力低下や拘縮を引き起こすリスクがあります。このため、不適切です。
  2. 水中歩行練習
    水中歩行練習は、膝関節への負荷を軽減しつつ可動域訓練や筋力維持を図るのに有用です。ただし、後十字靱帯損傷の治療においては、大腿四頭筋の強化を優先する必要があります。
  3. 大腿四頭筋の強化(正解)
    大腿四頭筋は膝の後方不安定性を補正するために重要な筋肉です。損傷の影響を軽減し、膝の安定性を高めるため、この筋力強化が優先されます。正答です。
  4. 超音波療法
    超音波療法は、炎症や疼痛を軽減する目的で用いることがありますが、筋力や膝の安定性を直接的に改善する方法ではありません。この選択肢は不適切です。
  5. ハムストリングスの強化
    ハムストリングスは膝を後方に引き出す作用があるため、後十字靱帯損傷のある場合に強化を行うと膝の後方不安定性を助長する可能性があります。このため、優先するべき治療ではありません。

ワンポイントアドバイス

後十字靱帯損傷では、大腿四頭筋の強化がリハビリの中心になります。一方、ハムストリングスの過剰な強化は逆効果となる場合があります。治療プログラムでは筋力バランスを考慮しながら、安定性の向上を目指すことが重要です。