第58回

第58回理学療法士国家試験 午後問題17

44 歳の女性。3 年前に全身型重症筋無力症と診断され、拡大胸腺摘出術を受けた。現在ステロイド内服治療を継続し、定期的にγグロブリン大量静注療法を受けている。この患者の理学療法で正しいのはどれか。

  1. 血清 CK 値を指標に運動量を調整する。
  2. 筋力増強には過用に注意し漸増負荷で実施する。
  3. 筋緊張亢進に対してボツリヌス毒素療法を考慮する。
  4. クリーゼのときには閉塞性換気障害を念頭に入れる。
  5. 体温上昇で神経症状が増悪するため環境温に注意する。

解答解説

正解は2. 筋力増強には過用に注意し漸増負荷で実施するです。

重症筋無力症(MG)は自己免疫疾患で、神経筋接合部の障害により筋力低下と易疲労性が主症状となります。理学療法では、筋力を徐々に回復させるために過用を避け、漸増的な負荷を慎重に設定することが基本方針です。

各選択肢の解説

  1. 血清CK値を指標に運動量を調整する
    この選択肢は誤りです。
    血清CK値は筋肉損傷(筋炎や横紋筋融解症)の指標として使用されますが、重症筋無力症では主に神経筋接合部が障害されるため、CK値は増加しません。運動量の調整には患者の疲労感や症状の進行状況を指標にします。
  2. 筋力増強には過用に注意し漸増負荷で実施する
    この選択肢が正解です。
    過用症候群(筋肉の過剰使用による症状の悪化)に注意しながら、段階的に負荷を増やす漸増負荷法は重症筋無力症において基本的なアプローチです。短時間での高強度の負荷は避け、疲労の回復を考慮しながら行います。
  3. 筋緊張亢進に対してボツリヌス毒素療法を考慮する
    この選択肢は誤りです。
    重症筋無力症では筋緊張亢進ではなく筋力低下や易疲労性が主症状です。ボツリヌス毒素療法は筋緊張亢進や痙縮がある場合に用いられるため、本疾患には適用されません。
  4. クリーゼのときには閉塞性換気障害を念頭に入れる
    この選択肢は誤りです。
    MGクリーゼ(急性増悪時)は呼吸筋麻痺による拘束性換気障害が問題となります。閉塞性換気障害は気道狭窄や肺疾患で生じるもので、MGの病態には合致しません。
  5. 体温上昇で神経症状が増悪するため環境温に注意する
    この選択肢は誤りです。
    体温上昇で症状が増悪するのは多発性硬化症(MS)の特徴であり、重症筋無力症とは異なります。ただし、MGでも疲労や症状悪化を防ぐために適切な環境管理は重要です。

ワンポイントアドバイス

重症筋無力症の理学療法では、以下のポイントを押さえておきましょう:
呼吸筋の評価と訓練も重要で、呼吸リハビリテーションを併用する場合があります。
重症筋無力症では筋の疲労と回復のバランスを取りながら進めることが治療の基本です。
運動療法は過用を避け、短時間の負荷から徐々に増やすことが重要。
症状が悪化した場合は速やかに中止し、休息を確保する。