第54回

第54回理学療法士国家試験 午後問題20

65歳の男性。右利き。突然の意識障害で搬送された。くも膜下出血の診断で、破裂脳動脈瘤のクリッピング手術を施行された。発症後3か月の頭部CTを示す。この患者に出現しやすい症状はどれか。

  1. 上着の左右を間違えて袖を通す。
  2. ジェスチャーの模倣ができない。
  3. 移動する時に左側の人や物にぶつかりやすい。
  4. 知っている人なのに声を聞かないとわからない。
  5. 担当理学療法士に毎日初対面のように挨拶をする。

解答解説

正解は5です。

この患者はくも膜下出血後の後遺症として前向性健忘(新しい出来事を記憶できない状態)を呈している可能性が高いです。頭部CT画像では脳室拡大が見られ、くも膜下出血後の正常圧水頭症も考えられます。この状態では、記憶障害が典型的に見られ、同じ人物に毎回初対面のような反応を示すことがあります。このような症状は海馬や周辺の記憶形成に関連する領域の機能障害が原因です。

選択肢の解説

  1. 上着の左右を間違えて袖を通す。
    この症状は主に着衣失行と呼ばれ、右頭頂葉の障害に関連します。本症例では前向性健忘が主な問題であり、頭頂葉障害の所見は見られません。よって該当しません。
  2. ジェスチャーの模倣ができない。
    これは観念運動性失行の特徴で、左頭頂葉や関連する領域が損傷された場合に見られます。本症例の主な病態は記憶障害であり、この症状は適用されません。
  3. 移動する時に左側の人や物にぶつかりやすい。
    これは半側空間無視を示唆する症状で、右頭頂葉または右側の後頭頭頂接合部の障害が原因です。今回の画像および臨床経過から、この患者の主訴はこれではありません。
  4. 知っている人なのに声を聞かないとわからない。
    これは視覚失認を示唆します。後頭葉の障害で発症する可能性がありますが、本例では海馬周辺の記憶障害が主で、視覚認知の障害は挙げられていません。
  5. 担当理学療法士に毎日初対面のように挨拶をする。
    正解です。前向性健忘による記憶障害により、新しい出来事や人物を覚えられないため、毎回初対面のような反応を示します。この症状はくも膜下出血後の後遺症として非常に典型的です。

ワンポイントアドバイス

クモ膜下出血後は後遺症として記憶障害がしばしば見られます。特に、脳室拡大が見られる場合は正常圧水頭症を疑いましょう。記憶障害を正確に評価するために、ウェクスラー記憶検査や短期記憶テストなどを活用するとともに、患者の生活支援や家族への教育が重要です。