60歳の男性。年前から歩行時にふらつきを自覚し、年前から話し方が単調
で途切れ途切れとなり膀胱直腸障害と起立性低血圧を認めた。四肢の固縮や振戦が
徐々に進行し、年前から車椅子で移動するようになった。最近、声が小さくなり
呼吸困難感を訴えるようになった。頭部MRI のFLAIR画像で水平断(別冊No. 4
A)及び矢状断(別冊No. 4B)を別に示す。
この疾患で合併する可能性が高いのはどれか。
- 失語
- 拮抗失行
- 声帯麻痺
- 下方注視麻痺
- 他人の手徴候
解答解説
正解は3です。
患者の症状およびMRI画像所見から、この疾患は多系統萎縮症(MSA:Multiple System Atrophy)が強く疑われます。多系統萎縮症の中でも小脳性症状(ふらつき)、自律神経障害(膀胱直腸障害、起立性低血圧)、パーキンソニズム(固縮、振戦)、さらには声が小さくなる(小声症)といった特徴的な症状が見られます。また、MSAでは声帯麻痺が合併することが多く、特に両側性の声帯麻痺が呼吸困難感を引き起こすことがあります。
各選択肢の解説
- 失語
失語は主に大脳半球の優位半球(多くは左半球)の障害に関連します。MSAは主に小脳、脳幹、基底核の変性が特徴であり、失語を引き起こすことはありません。この選択肢は誤りです。 - 拮抗失行
拮抗失行(抗利得現象)は進行性核上性麻痺(PSP)で特徴的に見られる現象です。PSPは主に中脳の障害を呈する疾患であり、MSAの症状とは異なります。この選択肢は誤りです。 - 声帯麻痺(正解)
正しい選択肢です。MSAでは、脳幹部の障害により声帯麻痺が生じることがあります。特に両側性の声帯麻痺は、発声困難や呼吸困難感の原因となり、症状が進行する場合があります。 - 下方注視麻痺
下方注視麻痺は、PSPに特徴的な症状です。MSAでは注視麻痺は生じません。この選択肢は誤りです。 - 他人の手徴候
他人の手徴候は大脳皮質基底核変性症(CBD)の特徴的な症状です。MSAでは見られないため、この選択肢は誤りです。
ワンポイントアドバイス
多系統萎縮症(MSA)は、以下のような特徴的な症状を持ちます:
- 小脳性症状(歩行時のふらつき、協調運動障害)
- 自律神経症状(起立性低血圧、膀胱直腸障害)
- パーキンソニズム(固縮、振戦)
- 脳幹障害による症状(声帯麻痺、小声症、呼吸困難感)
症状が多岐にわたるため、早期診断と多職種連携による包括的なケアが重要です。